七月の夢・前編




 目が覚めたら夢の中だった。
 国語力がないわけではない。確かに矛盾を含んだ表現ではあるけれど、僕はむしろ現状を最も的確かつ簡潔に表しただけで、つまり、変だと思うのであれば現状こそがおかしいということだ。
 “目覚める”の定義が「現実世界で自己意思を以って実態を動かせる状態になる」ということならば、僕はまだ目覚めてはいないと言える。しかしでは現実とはいかなるものか、はたして誰が正確に答えることが出来るものか。
 己を含め「在る」のが現実だと言った人がいた。実体も感覚も霊体ですら「在」り、法則に則った手順なしで消えぬのが現実だと。なかなか興味深い意見ではあるけれども、それでも随分哲学的、いや禅問答的で曖昧な定義だ。
 己の意思力で変容せしめぬもの、己以外は自己と異なる己のみの世界が現実であるというのなら、この世界は正に現実だ。ようは定義の問題で、言葉一つであらゆるものが現実となり、また虚構とも成り得る。
 まだるっこしい言い方は止めよう。つまり、こういうことだ。
 僕は今、涼宮さんの夢の中に入り込んでいた。
 初めは現状認識に苦しんだ。
 気がついたらいきなり真夏のビーチに水着姿で立っていたのだから。
「古泉君、大丈夫?暑気当り?」
 呆然としていると涼宮さんがやはり水着姿でビーチボールを持ち僕を覗き込んできた。
「疲れているなら少し休んでらっしゃいよ。夏休みは始まったばかりなんだし、合宿一日目から倒れるなんてつまんないもんね!」
 その途端、この舞台装置の説明がごわっと頭に流れ込んできた。丁度夢で、突拍子もない立ち位置にいてもどういう状況か理解できるように。
 ここは、どこか穴場のビーチ、今日は夏休み一日目で僕達はSOS団の合宿にやってきた。
「…いえ、大丈夫です。まともに太陽を見てしまったので、少々目が眩んだだけで」
「そう?なら良いけど」
 適当なことを言ってやり過ごす。涼宮さんの周りには長門さん朝比奈さん、そして彼がいて、やや違和感を憶える表情で僕を眺めていた。
 僕の記憶では先日七夕が終わったばかりでまだ夏休みまで間があったはずだが。
 もしかしてタイムリープか異次元に飛ばされるかしたかとも疑ったがどこか憶えのある感覚に思い直す。そして、徐々に理解した。
 ここは涼宮さんが願望を元に作り上げた夢の世界なのだと。
 涼宮さんの夢だが、涼宮さんは僕達を意のままに動かすつもりはないらしい。自身の創造物ではつまらないということかもしれないし、自分の他に四人分もの行動を考えるのが面倒と言うことかもしれない。それぞれの役はそれぞれでやりなさいとばかりに、全員の意識を引き寄せたのだ。
 他の三人も意識を引っ張られてきたようで、おのおのの自己はあるらしい。
 ただ彼らは、あの長門さんでさえどこか朦朧としていて普段とは違う。どうやら僕ほどクリアに自己を保てていないらしい。多分彼らは彼らで、それぞれに夢 を見ている感覚なのだろうと思う。下手をすると起きたらこの世界での出来事を忘れてしまっているだろう。そう、本物の夢のように。
 では何故僕だけ意識がクリアなのかというと、やはり僕の持つ能力と関係があるのだろう。
 この空間はあの閉鎖空間と同じ匂いがする。ポジティブな願望により作られた世界だからあそこと違い色彩も雰囲気も華やかだけれど、彼女が創造した現実とはずれた世界だ。
 夢の中なものだから、製作者といえ涼宮さんですら、…いや、夢の主であるからこそ涼宮さんも霞みかかった意識の中、僕だけは現実と変わらないクリアな思考と視野を持っていた。
「しかし一体SOS団の合宿って何だ?ただ遊びたいだけだろうが」
 意識を引き寄せられているものだから涼宮さんの注意していない場所でも彼は彼としての表情と口調でぼやく。
 彼はきっと今、涼宮さんに振り回されて夏合宿にやってきて、水着姿で楽しく遊んでいる女性陣を砂浜の僕の隣で座って眺めているという夢を見ているのだろう。
 しかし流石夢というべきか、海は近隣ではありえないほど青く、砂は輝く白さでどこまでも美しい。海岸には僕達の他に人っ子一人、一片のゴミもない。…なるほど、涼宮さんはこのような海へ夏合宿に行きたいのか。夏休みの退屈しのぎプランの参考にさせていただこう。

 観察を楽しんでいると、いきなり視界がぶれた。眩暈のように斜が入ったかと思うと次の瞬間僕たちはレトロな洋館の前に立っていた。いつの間にか服も着ている。
「これが今日泊まるホテル?何か曰くがありそうな感じね。わっくわくするわ!」
 急な場面転換に戸惑ったのは僕だけのようで、他の三人は全く平然としている。彼らにとっては夢なのだから、至極当然ということか。
 その後僕たちはメイドと執事の出迎えを受け、海の幸をふんだんに使った料理に舌鼓を打った。
 海合宿、メイド、執事、洋館、ご馳走。
 楽しそうにはしゃぐ涼宮さんを見て、現実世界の参考にする為、心でメモを取った。

 他人の夢の話ほどつまらないものはないとは言うが、一緒に体験するのなら悪くはない。特に、今回のように楽しい夢ならなおのこと。涼宮さんの創造力はなかなかのもので、「腹ごなしにちょっと遊びたいわよね」と言った途端、それまでロビーだった場所がぐにゃりと歪んで卓球台が現れた。いつの間にか僕達の服も温泉宿で出されそうな安っぽい浴衣に変わっている。洋館にはそぐわなくとも、卓球には浴衣ということなのだろう。
 夢というものは外的刺激や願望などによりどう不条理にも形を変える。ダブルスのパートナーをトム・クルーズにしたいと思えば途端に世界的俳優がウインクを寄越し隣に立つことだろう。もちろん、涼宮さんはSOS団の合宿にそんな闖入者は望みはしない。
 そして夢というのは識閾下の願望や恐れや想像力が大きく影響し、あまり「思う通りに」展開させられないのが普通だ。
 けれども僕ははっきりとした意識があり、かつ、この空間においては多少の力が使えるらしい。大きな外的刺激に成り得そうだ。つまり、僕の腹積もりでこの夢をある程度コントロールできそうな気がする。
 ふと、僕の力を試してみたくなった。
「涼宮さん、このホテルには海に面している露天風呂があるそうですよ。男女時間制で今丁度女湯の時間だそうです。行ってみられては?」
「本当?それは行っとかないとね!有希、みくるちゃん、行くわよ!キョン、覗いたりしたら死刑だからね!」
「誰が覗くか!」
「ジャングル風呂もあるそうですから、どうぞごゆっくり」
 先程まではなかったはずの露天風呂とジャングル風呂が、やはり先程までは行き止まりだった廊下の奥に出来たようだった。いつの間にか案内板が立てかかっていた。涼宮さんたちはいつの間にか現れた風呂桶と着替えを手に喜び勇んで去っていった。
 やれやれ、五月蠅いのがいなくなったぜと彼がぼそりと呟く。夢の中でも変わらぬテンションの低さだ。
「僕たちは一旦部屋に戻りましょう」
「そうだな」
 そう言って彼はすたすたと歩き出した。
 涼宮さんの夢の中だけれども、彼女と行動を共にしない時は消えるのでなく自由行動を許されているらしい。自分の意思でこの夢を過ごしなさいということだ。
 何気なく周囲を観察すると視界の端がぼやけている。けれども、視線をやり見つめるとクリアになる。涼宮さんは細部まで作りこんでいない(夢だから当たり前だ)、僕が見る事により補正がされクリアになるということだろう。
 僕以外の人間は夢で周囲がはっきり見えないことに疑問は持たないはずだ。僕がこの空間を固定し完成させているということか。ことのほか強い力が使えるのかもしれない。夢というものがそれだけ脆弱だとも言える。
 あらためて肩を並べて歩く隣人の横顔を見る。
 涼宮さん含め、他のSOS団メンバーも輪郭がぼやけているとか、パーツがどこか欠けているとかいった曖昧なところは何もなかった。夢の中とは言え、夫々の生の意識が入った器だからだろう。彼の顔はどこか漠としてい るけれどもそれは夢ゆえのことではない。
 この人は僕と二人になると、いつも途端に表情をなくす。先ほどまで朝比奈さんの水着をでれでれと眺めていたり、長門さんの食べっぷりに感心したり、涼宮さんの無理難題にこめかみをひくつかせていたりしていたというのに。
 無視されているとか嫌われているとかではないのだけれど、蔑ろにはされている。お前に振りまく愛想はないとばかりに言動がぞんざいになる。
 僕がそうさせてしまう行動をとっている部分もあるが、軽くあしらわれているようで実はあまり面白くない。この人は自分の事を一般人だ一般人だと言ってはいても、一般人たる自覚が薄いように思えてならない。神に選ばれたひとかどのものだという自負があり、それが僕を下に見る根拠のない自信に繋がっているのではないかと穿った見方をしてしまう。
 確かに僕は閉鎖空間以外では何の力も無い高校生だ。涼宮さんに選ばれたのだって、NHKの意識調査より無作為のアトランダムによる。けれども僕はこの世に十人程度という稀有な能力者で、高校生としても彼よりよほど秀でているというのに。
 慌てふためいた顔がみたい、僕を意識させたい、と、ほんの出来心だった。
 最初は。
 「男性陣に」と宛われた部屋に入るなり僕は彼を抱きしめた。
「…なっ…、なにしやがる!古泉!!」
 当然彼は驚いて体を離そうとする。その力には逆らわず、それでも手は彼の腕に置いたまま驚愕に歪むその顔を覗き込んだ。
「やっと二人きりになれたのですからいいじゃないですか」
「は?お前何言って…、離せよ!」
「つれないですね。恋人同士だというのに」
「…こ、こいびとぉ〜?!」
 もちろん、そんな事実はない。夢をいいことにそう信じさせようとしているのだ。
「ちょっ、ま…っ!いつから俺たちが!!」
 当然彼は否定する。涼宮さんの夢とは言え意識は彼のもの、つまり彼が見ている夢に準ずる世界だ。現実で身に覚えもなければ、そういう願望もないのだ。至極真っ当な反応だった。それでもこれは夢だ。不条理、理不尽、無茶がまかり通る場所。上手く力を加えてやれば、どんなことでも成立するだろう。
「いつ…って、つい先週のことですよ?僕が、蔑まれることを覚悟し、決死の思いで告白をして、意外にもあなたは応えてくれた。あれで恋人同士になったと思っていたのですが、僕の早とちりですか?」
「…へ…?」
「僕は『あなたが好きです』と言ってあなたは真っ赤な顔で『受け入れてやらんでもない』とおっしゃってくれた。あれはOKということですよね?婉曲な拒絶でなく。照れ隠しであなたはあんな風におっしゃったのですよね?」
「…あ…?」
「僕はあなたを抱きしめてキスをしました。僕としては先に進みたかったのですが、場所が場所でしたからその時はそこまでで諦めました。それでも離れがたく、何度もキスをねだる僕をあなたはやんわりと引き離し、『あまりがっつくな。逃げやしねーよ』と苦笑されたじゃないですか」
「…あ、あ…?」
 さすがにこれは突拍子なさすぎる設定だったかなと思いつつ、言い募るうちだんだんその気になっていた。演ずるうちに役にはまる役者のように。そう、僕は 今、同級生の男子に恋をして切ない思いを募らせている高校生男子なのだ。
「好きです。ねえ、何で抱きしめていけないんですか?僕達は恋人同士ですよね?」
「…う…、…そ、そうだとしても、こんな合宿中にお前…」
 かかった。
 彼の腕からは拒絶の力は抜けていた。頬が真っ赤なのは羞恥からで、怒りによるものではない。場所をわきまえず言い寄る恋人の無節操を咎めているのだ。
 心の奥でほくそ笑む。僕の術に完全にハマったのだ。
 この時点で僕には彼に対する恋愛感情はなかった。仲間意識すら、あったか怪しい。
 僕にとって彼は、取り立てて特筆すべきところがない、だのに重要なポジションに収まり、かつ自覚も覚悟もないいい加減な人間だった。
 些細なことで世界を壊したがる涼宮さんも大概だがまだ彼女には才気があり力がある。一歩引いて敬うべきところがある人だがこの人ときたら、具体的な能力も何もないくせに、涼宮さんに気に入られたというだけで、世界の鍵だという。百歩譲ってそのポジションは許そう。でも 彼はその役割を理解していない。知ったことかと勝手に振舞う。涼宮さんより余程傍若無人に思える時すらある。実に腹立たしい。
 では何故僕を恋人と思い込ませようとしたかというと、僕のややインモラルな性質と性根の悪さが原因だ。
 愛のない性を嫌悪する道徳心は持ち合わせていない。そして性的な嫌がらせが何にも増して精神的打撃を与えることを知っている。
 僕とて流石に男相手の経験はない。それでも、少しばかりの興味なら有った。ここは、その好奇心を満たすのに最適の場だった。何せ夢だ。ダメだと思えば止めれば良い。そう思い僕はあらためて彼を抱きしめた。
「好きです。あなたに言葉は強いません。でも僕のことが好きなら、どうか拒まないで…」
 耳元で囁くと彼は自制心を総動員させ、拒絶を封じようと体を強張らせた。恋人同士で、このシチュエーションで拒むのはおかしいという理性が働いているのだろう。僅かばかりの興味もあるのかもしれない。初体験を迎える初心な生娘といったところか。
 きつく結ばれた唇にゆっくりとキスを落とす。重なり合う瞬間、慌てて目を瞑った彼の仕草が妙に可愛らしく感じた。
 弾力のある唇を、確かめるように優しく食む。彼のそこは思いの外柔らかだった。
 口は硬く閉ざされていたけれど喉を指先で擽ると反射的に開いた。その隙を逃さず舌を差し入れる。彼の体がびくりと揺れ、ぐぐもった喘ぎが隙間から漏れた。
 …面白い。
 腕から脇、そして引き締まった臀部に手を這わせる毎、彼は敏感に反応した。普段のふてぶてしい態度からは想像もつかない従順さだった。
 いつしか僕は彼への愛撫に夢中になっていた。ただそれは愛どころか肉欲ですらなく、ゲームの攻略に近かった。
 いつもは仏頂面の彼が、顔を朱に染め目を潤ませ息を喘ぎ切らせる、その変容が愉快で、次々と攻めの手を打った。
 そうこうするうち、腰のあたりに堅いものがあたって来た。同じ男としてそれが何かを分からないわけがない。
「あっ…!」
 下着ごとジーンズを下げると(ああ、そう言えばいつの間にか浴衣ではなくなっている)、彼は情けない声を上げた。すっかり勃ち上がり、先端を濡らし震え ている性器がそこにあった。
 思わず、喉が鳴った。
「…見、んな…っ!」
 今にも泣きそうな目で、それでも睨み付けてくる顔のなんと扇情的なことだろう。
「嬉しいです…、こんなに感じてくれて…」
「ひや!」
 耳元で囁いて直に性器を握り込むと彼の膝が崩れた。
 腰を支えベッドに座らせ前に跪く。
「ちょ…、こ…っ!」
 丁度目の前に捧げられたその場所に一つキスをし、口に含む。その行為に何の躊躇いも嫌悪もなかった。
 夢だから大した臭いも味もしない。海で遊んで体を洗ってもいないのにだ。濃い体臭がしてしかるべきなのに微かな酸味と苦みがあるだけだった。
 喉の奥いっぱいにくわえ込み、唾液を混ぜ合わせて舐る。
 こんなことが出来るだなんて、思ってもみなかった。男の性器を口に含むだなど。
 精々互いのものを手で慰め合うか、それもノらなければ夢を良いことに対象をねじ曲げるつもりでいた。
 つまり、こうだ。「僕はあなたと秘密を知っています。あなたは実は女性でしょう。お家の都合で男性として育てられてしまったんだ。可哀想に。でも大丈夫、僕は分かっていますから、逃げないで…僕だけにあなたの全てを見せて下さい」とでも言えば彼の胸は膨らみ下半身はあるはずのものが消えその代わりに男 を受け入れる為の場所が出来るだろう。
 あまりに馬鹿馬鹿しい設定だが夢というものはいくらでも馬鹿馬鹿しくできる。それにこの世界での僕の力は存外強い。思いこませて変容させるくらい易いだろう。
 しかし僕はしなかった。
 あくまで男のままで、彼をこの手で翻弄させたかった。
「…こい…っ、離せ…っ!」
 力の入らない四肢をばたつかせて僕から逃れようとする。でもそれは嫌悪からではない。限界が近付いているのだ。
 身を捩られれば捩られるほど放してやるものかという気になる。腰を抱き留め両肘で足を押さえつけ、今にも弾けんばかりのそれを指で擦り、強く吸い上げ た。口の中に出させる気か?と僕の中の誰かが驚いたが男の精液を飲む嫌悪より、彼の羞恥をより強くする愉悦の方が上回った。
    っ、あ…、あぁっっ…!」
 イくまいと随分頑張ったけれど、とうとう彼は僕の口の中に吐精した。
 粘りこそあれその体液はさしたる味もなく、飲み込む事に僕はかけらほどの抵抗も感じなかった。
 むしろショックを受けたように呆然と僕をみつめる彼の顔を目の当たりににし、してやったりという気持ちが強かった。


 自分はインモラルな方だと自認しているが、あくまで考え方はであって、実生活や性向がそうだというわけではない。
 不倫や乱交パーティーやスワッピングなど、お互いの同意があるなら勝手にすれば良いと思うし悪いとも思わない。でも自分がしたいかと言えば別だ。何を好きこのんでそんな面倒なことに手を出さないといけないのか。
 同性とのセックスだって、やりたいヤツはやれば良いと思っているし、蔑むつもりもない。ゲイの友人も居る。でも僕は女性とする方が良い。いや、男としたいとは思わない。…思わなかった。男なんて、堅いしむさ苦しいしグロテスクだし、よくもまあ女はこんなものとセックスしたがるものだと不思議に思うことすらあるくらいだ。
 特に、この性器。興奮すると大きく堅くなるなんて、何て醜悪だ。この変化を目の当たりにしたくないから自慰をしないというくらいに。
 だというのに今僕は彼のモノを見下ろし手淫で形を変える様を興味深く凝視している。
 先走りの液を指になすりつけ、双丘を鷲掴みにし広げ、本来なら排泄に使われるその場所にねじり込んだ。
   っ!!」
 彼の、声にならない声が淀んだ空気を裂き耳に心地が良い。苦しげに僕を見上げる潤んだ眼差しが何とも言えぬ色香を発していた。
 僕の性向は至ってスノッブだ。アナルセックスには興味がない。いや、なかったはずだ。だのに…   
「ねえ、入れて良いですか?」
 後ろと前を同時にいたぶりつつ耳朶を甘噛みし、自分でも驚くくらい熱っぽい声で囁く。
 僕の欲望は今にも爆ぜんばかりにいきり立っている。今僕は彼にこれを入れたくて仕方がない。密着した肌でそれは彼にも伝わっているに違いない。
 彼は体を硬直させる。多分恐怖からだろう。そんなものが入るわけがないだろうと目で訴えてくる。
「大丈夫です、痛くありませんよ」
「…おま、そんないい加減な…」
「いい加減ではありません。男にはこの中に感じる場所があるんですよ。十分解せばすんなり入れますし凄く気持ちが良いはずです。…ねえ、好きです…、僕を受け入れて…。あなたが欲しい…」
   …」
 キスを繰り返し囁くと彼はどうとでもしろとばかりに目を閉じた。
 僕は、好きです、と、大丈夫です、と、気持ちよくなります、を繰り返し暗示をかけ、彼の中に楔を埋め込んで行った。
 暗示のかいあって、裂けることなくその場所は僕を全て飲み込んだ。
 それどころか早速イイところを探しあて、嬌声を上げはじめた。流石夢だ、都合良く出来ている。
 ろくに準備もしない初めてのアナルセックスで、傷も負わずいきなり感じるなんて、どんな淫乱だ。
 もちろん彼が淫らなわけではない。僕の暗示が、痛みを回避させようとする自己防衛の力を借りより強くかかったということだろう。
 僕はと言えばみっしりまとわりつく内壁の滑った感覚に興奮し、餌に群がるハイエナのように彼を貪った。夢だから都合の良いようにナカを変容させたのかもしれない。それほど快楽が強かった。
 体を反転させ獣の形でもっと楽しもうとしたその時、視界の端がぼやけてきた。どうやら涼宮さんが目覚めようとしているらしい。つい行儀悪く舌打ちしてしまう。急がなくては。
「古泉っ、こ…っ!」
 僕の腕を求めて手を彷徨わせる彼を押さえつけ、射精する為激しく腰を動かした。
 徐々に情景が霞み、周囲が完全にホワイトアウトする直前、彼の中にで絶頂を迎えた。
 吐精後の倦怠感に浸る間もなく輪郭から消えて行く情景の中、何かやり残したことがある気がし、思い付くより先に彼の腕を引き上げ口付けた。
「好きです…」
 言い切る前に世界は消え、僕は二度目が覚めた。
 そこは自室のベッドの上で、もちろん隣に彼はいない。股間には彼の中に出したはずだった体液がこびり付き、彼の精液を飲み干したはずの口内にはあるはずの粘りがない。
 何故だか、酷く脱力した。



−続く−



サイトで連載もの書くのは初めてです。一応三部各前後編予定です。年内に完結までアップ出来るといいなぁ。それよりR18ものはサイトアップはちょっと抵抗があるので、途中で挫折しないこと目標?後編は半月以内にアップしたいな、っと。