終章 僕の気持ちの整理はまだ付いていなかったが、暫くは平穏な日々が続いた。 もちろん、平穏と退屈とはイコールではない。涼宮さんが新種の動物を発見したり、SOS団のプロモーションビデオを作ろうと朝比奈さんの撮影会をした り、水着でポロリのシーンが欲しいと言って彼に全力で止められたり、土壌活性装置をバージョンアップさせると言って技術者たちに徹夜の作業を強いたり、そ の慰労会だと基地を上げてのバーベキュー大会を開いたりと色々有りはしたが、嬉々とした慌しさで、不穏さも剣呑なところも何もなかった。 このまま暫くは落ち着いた生活が続くと思っていたのだが、そうはいかないらしい。僕はまだ涼宮さんの性格を掴みきれていなかった。 「テトラもそろそろ安定してきたわね」 ミーティングと称したただのお茶会時、ミーティングルームに集まった我々の前で涼宮さんが突然ばんっ、と机を叩いて言った。 「この星系も一通り観測したし、そろそろペンタに向けて出発して良い頃だと思うの!」 「…ペンタ?」 そんな場所が有ったかと記憶を手繰っていると彼がさも嫌そうに口を歪め、ボソッと口にする。 「五番目だ」 「はぁ…」 「次なる侵略地を求めて旅立とうってんだよ。…ったく、ようやく此処での生活も落ち着いてきたってのに」 「ちょっとキョン、聞こえたわよ!何よ、侵略って、開拓と言いなさい!いーい?あたしたちの任務はどっかの星に安住することじゃないの!あたしの来訪を待 ち受ける未開の地に乗り込み星々を開放することにあるの!一箇所でぐずぐすしていたら、宇宙全部回りきれないじゃない!」 「…全部…って、宇宙がどれだけ広いと思ってるんだよ…」 「だからとっとと次に行くって言ってるんじゃない!ぐずぐずしない!全宇宙、端から端まであたしのものにするんだからね!」 その計画は途中で頓挫する。 唐突に、僕は分かってしまった。 涼宮さんの、真の目的を、無意識下の願望を知ってしまった。 涼宮さんは、“地球”を探しているのだ。 黒髪の女性が笑いかけ「あたしはここにいる」と岩肌で待つ始祖の星を。死して魂のみ還るでなく現身で乗り込まんことを。 始祖太陽系がどこにあるかは軍ですら知らない。帝国が隠しているし、周囲はうかつに入り込めないよう監視網が敷かれているだろう。 それでも彼女は地球を求め、宇宙を駆け回り、やがては見つける。見つけて、再生する。 決して言わないだろうし、自覚しているかも怪しいが、彼女はそれを目指しているのだと僕には分かった。 「言っておくけど、あたし一人でやるんじゃないからね!みくるちゃんも、有希も、古泉君もキョンも、SOS団全員、みんなで一緒にやるんだから!」 太陽より明るく笑い、声高らかに宣言をした。 それが、彼女の意思だった。
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