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 拝啓

 先週巷を襲った戻り寒波も去り、こちらではようやく桜の蕾が膨らみだしました。そちらは如何お過ごしでしょうか。並行世界は気候も同じなのか、それとも別世界として独立しているのか興味はありますが、僕にはそれを知る術もありません。 ---------------------


 そこまで書き、やはり差し出すあてのない手紙をしたためるのは、特に僕の悪筆では苦痛を伴うのでペンをおいた。
 現状を誰かに知らせたいのに、知らせるに相応しい人、知らせても構わない人が思いつかず、つい柄にもないことをしてしまった。けれども僕は元々興味のないことには指一本動かすのも億劫がる質だから、続くものではない。
 言い換えれば、続いていることはそれなりに興味はあることだ、ということを意味している。


 彼…並行世界の方の彼からその話を聞いた時はさしもの僕も驚いた。聞いたというより、彼のちょっとした失言で僕が感付き、問い詰めたわけで、彼自身は言うつもりはなかったらしく、あからさまに「しまった」という顔をし、誤魔化そうとしたのだが追求を緩めなかったのだ。脅しに近い圧力をかけもした。
 とにかく僕はその事を知り、最初は向こうとこっちが下手なリンクをしていなくて良かったと胸を撫で下ろした。何で男と乳繰り合わなければならないんだ、と。
 けれども彼が消えて…帰って数日して、日々に平穏が戻ってしまうと、どんどん興味が膨らむのを押さえられなかった。
 僕の異世界同位体である向こうの古泉一樹が選んだ相手とは一体どんな人なのだろう。どういう魅力があるのだろう。男とするってどんな感じだろう。
 猫をも殺す好奇心を、特に性的な方面では持ち合わせていた僕は、いたく興味を持ち、考えるといてもたってもいられなくなった。というか考える暇があれば行動する、が僕の信条だ。セクシャルな欲求に関しては。
 ダメなら諦めれば、別れれば、捨てれば、止めれば良いと都合の良い考えでこちらの世界の彼にコナをかけたのだが、意外にハマってしまった。
 年の割りに落ち着いた深遠な目が良い。沈むように響く低い声が気持ち良い。独特な目線で物事を切り込んではっとさせられる。僕にすぐになびかないところも、だのに僕にちゃんと興味を持って正面から見据えてくれるところが嬉しい。
 何より、そのうち落とせる手ごたえがある。Xデーまでのシークレットカウントダウンをしているようで、それが楽しい。

 出会って数ヶ月、まだキスしかしていない。それも、彼にしてみれば事故程度の認識しかない不意打ちのキスだ。こんなスローペースな恋愛は初めてだったが、少しずつ手札を開いていく、関係を育む時間が思いの外心地よかった。

 もう二度と会うことはないだろうけれども、可能ならば向こうの彼にお礼を言いたい。
 彼と、引き合わせてくれてありがとう。僕の目に映してくれてありがとう。普通に生活していたら、決して交わることはなかっただろう人。この人に会えて、僕の人生は一層楽しく、張りが出ました。
 あなたも、そちらの僕と幸せに。きっと僕はあなたを大事にしますから。
 どうか、末永くお元気でいて下さい。