「古泉が消えた日」の派生,その後の話です。
あらすじ書こうかと思ったのですが、面倒なんでやめます。
適当に脳内補完して下さい。
もし興味を持って下さったら買うたって下さい。
カップリング未満の話です。



昔の僕でない今の僕



 どうもここ最近彼の様子がおかしい。
 おかしいと言っても何かを隠しているとか、企んでいるという風情ではない。また、そのおかしさは涼宮さんや長門さん、朝比奈さんには向けられていない。ぶっちゃけて言うと、僕に対して非常にフレンドリーなのだ。
 彼にとって僕は、涼宮さんによって無理矢理同朋にされたSOS団の一員で、胡散臭い気の許せないリミット付きの超能力者だ。数々の困難を潜り抜け多少の信頼は生まれつつあるものの、一定の距離と暗黙のうちに認められた制約がある関係のはずだった。僕としてはその距離を縮めたく、また深い方向で変化を望みつつも、力の加えどころを間違うと全てが崩壊していまう恐れがあったので、積極的に働きかけるつもりはなかった。
「谷口からグラビアアイドルの写真集借りたんだが、お前も見るか?」
「…はあ。…あの、ここでそのようなものを拝見するのは少々危険かと…」
「ハルヒの目を気にしてんのか?だったら広げて見るからお前、こっそり覗き見てろよ」
「…えー、あなたがご覧になるのも推奨できません。涼宮さんの前でそんなものを広げられたら即バイトの呼び出しがかかります。それに僕はその手のものにはあまり興味がありませんので」
「………」
 何故そんな疑わしい顔をされるのだろう。グラビアアイドルに興味がないというのはいたって古泉一樹らしいと思うのだが。
「借り物だから又貸しするわけにはいかんしな。如何に相手があの谷口であってでもだ。まあ、今度あまり露骨じゃないものを見繕って持ってきてやるよ」
「…いえ、ですから僕は…」
 固辞しても彼は耳を貸さない。
 お前はどういった子が好みだ?と屈託無く聞いてくる。…人の話、聞いてます?
 やっぱロングヘアーかなぁとか勝手に想像を広げる脇で、深くため息をついた。
 どちらかと言えばベリーショートが好みですけど、突っ込んで話しても絶対すれ違うと思いますよ。正確に言うとショートが好みなのではなく、好きになった人がショートだった、なんですけどね…。

 最近やたらと彼は、僕に「普通の男子高校生同士」の会話を振ってくる。普通のと言ってもその話題は殆どが異性絡みのことで、まあ彼とは学業や趣味では話が合わないのでそちらに話が行かないのは分かるのだが、だとすれば異性に行くのもおかしな話ではないか。出会ってこの方、僕はあたかも性欲なぞありませんという体で振舞っていたし、彼にしてもそれほど興味があるように思えない。クラスメイトにのけ者にされたから僕に振ってきたわけではあるまい。実際、こんな変な集団に身を置いているにも拘らず彼はクラスにすっかり馴染んでいるようだし。
 何故彼がこのような振る舞いに出るようになったのか、理由は分からないがいつを境界にしてかは分かる。
 約2週間前、節分の前日に僕は、放課後の団室に向かう前に彼に教室から連れ出された。人気のない中庭で、「今の境遇は好きか」と問われた。突然の意図の読めない問いかけだったが、彼は酷く真剣に聞いてきたので、僕も茶化してはいけないと真面目に答えた。
 ええ、好きです、今の境遇も環境も大好きです。そりゃ、細かな不満がないと言えば嘘ですが、それを上回る満足があります。その不満だって、この境遇をもっと居心地良くしたいという欲求から出ているわけで、ここを否定したいわけでも今が嫌というわけでもない。
 涼宮さんを恨んでいないか、ですって?とんでもない。今の僕があるのは涼宮さんのお陰と思えば感謝こそすれ、恨みなど抱くはずはない。そういうことを抜きにしても、僕は涼宮さんが好きだ。恋愛感情でなく、一人の人間として。あれほどのバイタイリティと行動力がある人はそうそう居ない。次々と提示される奇想天外な活動は、退屈が好きなひきこもりでもない限り、楽しくないわけがない。
 彼女の所為で僕は素のままで生きられていないと彼は言う。涼宮さんの思うところの転校生像を押し付けられている、と。でも僕はそれすらゲームのように楽しんでいる。それに、10ヶ月近く演じているうちに、こちらが僕の元々の本質でないかと思えるほど、馴染んできてしまっていた。思考すら、ほら、丁寧語でしてしまう。
 そんなわけで僕は、今の僕に何の不満も不都合もない。
 でも彼はそう思っていないらしい。この境遇の所為で僕は何かに我慢していて、彼なりに力になってくれようとしているらしい。
 それ、見当違いですから!
 声を大にして言いたい。何で僕の力になろうとしてグラビアアイドル!?彼が食いつける僕の好きそうな話題がそれ!?一体どういう認識ですか!僕は今そんなものに興味はまっったくありませんよ!昔ならともかく!

 …一つ思い当たるのがそれだ。
 何故彼がいきなり僕に異性の話題を振ってくるようになったか。
 彼は僕が女好きだと思っている。それも、それなりに下世話な方向で。
 何故そういう風に思うのか。隠しているわけですらなく、今の僕は全くそちらの性向がないというのに。健全な男子高校生として火照る夜に何をおかずにしているか聞いたら彼は目を剥いて飛び退るに違いない。
 でも昔からそうだというわけではなかった。正確には北高に転校する前までは、僕は真っ当に、人より少し女好きで、今思えばかなり性にだらしがなかった。高校一年の身で、いや、中学時代から、俗にセックスフレンド呼ばれる特殊な女友達が居たくらいだ。ただ一度に複数と付き合ったことはなく、避妊もしっかり……すいません、ただの言い訳です。きっぱり、女好きでした。
 あの頃の僕を知っていれば僕のストレス解消にグラビアアイドルの話題を振るくらいの気遣いは思いつくだろう。でも彼はその頃の僕を知らないはずだ。よし、知っていたとして、2月に入ってからいきなりあんな言動を取るようになるには繋がらない。
 …と、そこまで自分に言い聞かせるように考えてまた別の要素を思い出す。

 朝比奈みくる。

 未来人。並みの男子では抗いがたい容姿とスタイルで彼を巻き込む存在。
 彼女に導かれ、彼は何度か時間移動を経験しているという。もしかしてその時に彼は過去の僕に会い、僕の乱れた生活と幼い言動を目の当たりにしたのではないだろうか。
 その可能性に思い至り、一旦思い浮かべばそれが真実に違いないと確信すると全身に冷や汗が滲む。
 あんな幼稚な、世間知らずな、ろくでなしの女好きが僕の本質だと思われては非常に困る。
 違います、違うんです、あれは僕ではなく…いえ、確かに数年前の僕ではありますが、あれから僕はあなたや涼宮さんに会い変わりました、あの時のままの僕ではないのです、今の僕が僕なのです。
 あんながさつな男ではないし、子供っぽい言動もしない、何より、女好きじゃないしセックスフレンドも居ません、好きな人に告白すら出来ない純情青年なんです、信じて下さい!

 でも彼は妙なところで頑固だ。
 未来人や超能力者を受け入れ、異空間に放り込まれてもちゃんと帰って来た、その順応力と柔軟性はあるくせに、一旦「こうだ」と決めたこと、思ったことはテコでも動かさない頑ななところもある。強靭,強い意志と言い換えても良い美点だけれど、今回に関しては欠点だ、間違っている。

 「今は昔の僕とは違います」とどれだけ言葉を尽くしても聞き入れてくれないだろう。世の安寧の為に本心を隠すことはやぶさかではないのだが、勘違いされ、誤った友情を育もうとされるのは非常に困る。精神衛生上もよろしくない。
 この上は、墓場まで持っていくつもりだった告白をしなければならないのだろうかと僕は頭を抱えた。



去年の10月に書いて放置してあった話です。こっから更に続いてカップルになるまでの話を書こうとした形跡があります。でももうどう持って行くつもりだったかすっかり忘れました。要約すると「僕が好きなのはあなたです!」「何だと!?」かと(笑)。
各自脳内補完して下さい。…すんません、そんなんばっかで。
両思いではありませんが一応古キョンにカテゴライズ。片方は思っているし、多分潜在的両思いなので。