R18ではないと思いますが、下世話なんで注意

一番気持ち良いセックス



 僕はかなり早熟な子供だった。
 主に性的な意味で。
 小学4年の時点で身長は既に160を越えていて、容姿も大人には見えなくとも少年期は脱しており子供のそれではなかった。当然と言うべきか、性器もその役目を果たすことが可能なくらいには育っていた。
 世に何も知らぬ無垢な異性を自分の手で染め上げるを好む人種がいる。たまたま僕の家のはす向かいに住むOLがその手の人間で、僕は11の誕生日にプレゼントをあげるからと彼女に部屋に誘われ、そのまま童貞を消失した。
 彼女との付き合いはそう長くはなく、その理由は彼女が相手に一通りの事を教えると興味をなくすタイプの女性だったからで、つまり僕はその点においては非常に優秀な生徒だったというわけだ。
 小学生に手を出すというインモラルなところがありながら、あるいはインモラルであったからこそ、彼女は僕に後腐れない性交渉の為のマナーを説いた。必ずゴムは着けること、本気の相手には手を出さないこと、深追いは絶対禁物等等。遊ぶのに都合の良いデートスポットもいくつか教わった。おかげで僕は小学校を卒業するまでには関係した女性の数は二桁に及ぶという、年に似合わぬ経験値を持つことになっていた。性交渉の回数で言うなら更に桁は一つ上がる。愛だの恋だのは面倒で、お手軽な相手を見つけられる場所に赴き、一夜限りの関係を楽しんだことも一度や二度ではない。
 この能力に目覚めてからもその悪癖は収まらず、同年代の能力者が「神人退治なんかしていたら彼女を作る暇もない」と嘆く傍らで、ウサ晴らしの意味からむしろ頻度は上がったくらいだった。
 とにかく僕は同世代の人間と比べて段違いに女性経験が豊富で、こと女性談議においてはどんな大人に混ざっても引けをとらない自負はあった。

 高校生活が始まる一週間前の週末、機関の仲の良い年長者数人に「卒業祝いに」と宴席に誘われた。
 「15歳の未成年を飲みに誘うなんてどんな了見ですか」と呆れてみせたけどポーズだけで、「お前は人の何倍も濃い人生を送ってんだから良いんだよ」と返された時には一人前と認められたようで鼻が高かった。
 それでもさすがに居酒屋等に赴くわけにはいかず、場所には面子の一人が暮らすアパートの一室が選ばれた。
 メンバーは僕の他は20代前半から30代半ばの男ばかりが4人。ワイルドな山男、象牙の塔に住まう研究者、垢抜けない大学生とタイプはまちまちだったが、全員、能力者で、三年間あの異常空間で行動を共にした仲間だった。
 男だらけの集まりで、酒も入っていて上品な会になるわけがない。
 当然の帰結として話題はかなり露骨な猥談になっていった。
 仲間内の一人が相当の手練れで、経験豊富を自負する僕でも足元に跪き地面に頭がめり込むほど土下座して「まいりました」と言いたくなるほど場数を踏んだ女好きの人だった。女性に対して恐ろしくマメで、顔を付き合わせた女性は取り合えず口説く。何度断られても口説く。美醜関係なく口説く。深追いしない憎めない性格なので呆れられることはあっても敵は殆どいない。あの鋼鉄の女、森園生さんですら口説くのだから凄い。
 僕はとりわけこの先輩と話すのを楽しみにしていた。女性について同世代で僕の話についてこれるものは皆無、年上でもそうそう場数を踏んだ人は居らず、心置きない猥談というものに飢えていたのだ。忌憚のない談議もだが、まだ知らない世界の扉を開けて見せて欲しいものだとうずうずしていた。
 思惑は当たり、効果的なGスポットの攻め方とか、48手にもないえげつない体位とか為になる話をたくさん聞けた。
 経験談になるとその先輩のほぼ独壇場で、彼に継ぐ経験の持ち主たる僕でも聞き役に徹するしかなかった。
 高校時代に新任の女教師をコマした話(俺もあの時は若かったね)、来日中の黒人スーパーモデルとの狂乱の夜(外人は胸はでかいが締まりが悪い)、闇ルートで手に入れた媚薬を使い危うく精力が尽きるかと思った終わりの見えない情事(悪いこと言わない、クスリには頼るな)、類まれなる数の子天井に当たって泣いてよがったこと(顔と体は並だったんだけどな、全く女は抱いてみないと分からんよ)など。
 彼は話術も巧みで、聞いているだけでイってしまいそうなほど興奮した。
「…でも、さ」
 話がひと段落した時、それまで聞き役に徹していた大学生がぼそり、と言った。
「一番気持ちが良いのは好きな子とのセックスだよね」
 アルコールの回った赤い目で何処か夢見がちに遠くを見つめた。
 誰かを思い浮かべて言っているわけでない、ただの夢想だという顔だった。
 僕にはそれがとても滑稽で、良い年して何を乙女みたいなことを言っているんだと内心せせら笑った。もしかしてこの年になっても童貞なんじゃなかろうかと呆れた。けれども、誰も笑わなかった。それどころか、経験豊富な先輩が真っ先に、しみじみとした顔で力強く頷いた。
「顔が不味くてもフェラが下手でも胸がしぼんでいても感度が悪くても、惚れてりゃ関係ない。好きな相手とするのが一番だよ、そりゃ」
 そして他の二人も同意した。
 この発言に僕は驚いた。僕だけが納得出来ず、「え、でも体の相性が悪いと続かなくありません?」と問ったが笑って否定された。「惚れた相手とするセックスが一番気持ちが良いんだよ」と諭すように。
 それでも懐疑的な顔をする僕に「そのうちお前も分かる日がくるさ」としたり顔で言われ、しかも子供にするみたいに頭にぽんと手を置かれたので、酷く悔しくなった。
 そんなことはない、僕はやっぱり体の相性も大切だと思うと言い返せはしなかったが心で思い、そのうちいつか証明してやると憮然としていた。
 先輩たちの言うように、どれだけ性交渉の経験があろうが全く僕は子供だったのだ。


 惚れた相手とのセックスが一番だよ。
 今ならあの時の先輩たちが言っていたことがよく分かる。
 胸がなかろうがキスが下手だろうが体が硬かろうが好きになってしまえば些細なことだ。性別ですら、大した障害にはならない。
 セックスの相手としてこの人ときたらろくでもない。
 なかなかその気にならないし、ようやくこぎつけても完全なマグロで自分からはキスすらしない。僕も触って欲しいと導くと、おっかなびっくり手を添えて、そんなもんでイけるか、せめて自分でやる時を思い出して触ってくれと言いたいくらいに弱々しくしか動かさない。その口の中は熱くて気持ち良いだろうなとフェラをねだったのにきっぱりはねつけられてしまった。69をしたいと言ったら化け物を見る目で拒否されるだろう。
 後ろの穴は本来の器官ではないから入れるのに酷く手間取るし準備が要る、後始末も大変だ。その上伸縮や分泌の関係からお世辞にも収まりが良いとは言えない。
 だというのに僕はこの人とのセックスが気持ちよくて仕方がない。日長一日、前回抱き合った記憶を引っ張り出しにやにやし、次はいつ抱けるのだろうと考えている。
 この人とするようになってからは他の体を抱きたいと思わなくなった。精力が減退したわけではない。むしろ四六時中ソレを考えるようになってしまった。ただ妄想の中でも実際も僕の相手はこの人だけ。
 僕の精液と唾液にまみれてぐったりとシーツに投げ出された体を見下ろせることがこの上なく幸せを感じる。
「よかったですよ」
 テンプレの言葉だが本心だ。汗で額に張り付いた髪を掻き分けキスすると、彼はさも嫌そうに僕を睨んだ。ああ、可愛い。
「お前よくこんな、胸もなけりゃ可愛くもない、ごつごつした同性の体抱いてそんなこと言えるな。お前と同じモンついてんだぞ?入れるとこ、ケツしかないんだぞ?楽しいか?それともあれか、経験が豊富すぎて普通じゃ満足出来なくなってるのか?」
 憎まれ口で本心ではない。ただ不思議なのだろう。自分だってよがっていたくせに。
 可愛い女の子を相手にする方がよっぽど楽しいだろうによ、と昔の僕みたいなことを言うので思わず笑ってしまう。
「セックスはね、好きな人とするのが一番気持ちが良いんですよ」
 かつて先輩に言われたように、経験者らしくしたり顔で言うと、アテ外れなことに彼は重々しく頷いた。
「それは俺も身をもって知っている」