恋の恨み




 実は…とさも大事な秘密を打ち明けるかのように古泉が口を開いたのはとある長閑な休日の午後。
 ハルヒの家の都合だかで例の不思議探索はナシ。団活がない日は一緒に過ごすのが常になっちまった男の部屋で、既に遠慮なんてものは海王星より彼方に消えた体で、俺専用となったクッションを抱きかかえてスナック菓子を食らいつつ俗な週刊誌を読んでいた時だった。
 随分勿体つけた声だったが、顔はやや照れたように歪んでいた。俺も随分学習したからな、こういう時はどうせもの凄く下らないことを言い出すに決まっているとアタリをつけた。
 ちらりと目線はくれてやるがさしで興味なく雑誌をめくって聞き流しの体勢を取る。
「実は僕は一度だけ、涼宮さんを本気で恨んだことがあるんです」
 …あ?なんだ結構不穏な話か?
「閉鎖空間絡みか?その、酷い怪我をしたとかそもそもなんでこんな力を与えたんだとか?」
「その件に関しては僕の中ではすっかり折り合いがついてます。
 こういう力を持ったからこそあなたに会えましたし、慣れると平凡な日々よりよほど面白いですしね。
 それに涼宮さんは出したくて閉鎖空間を出しているわけではありません。無意識のものですから涼宮さんが悪いとは言えませんよ。特に僕達は原因が涼宮さんだと分かっているのに彼女に対して直接的な働きかけはしていませんしね」
 ハルヒが図り知らぬところで恨むのは筋違いだしフェアじゃないとな。優等生の発言だぜ。
 でもじゃあ何だ?
「夏休みの、例の孤島での合宿の時です」
 そここそ恨むようなとこがあったか?
「準備にえらい手間取ったのに謎を簡単に解明されたとか(ありゃ俺だ)か?」
 その程度じゃ、なぁ。
「いいえ、そんなことではありませんよ。むしろ涼宮さんが喜んで下さって大成功したんですからね。
 で、なくて、ですね、初日の夜した王様ゲームの時です」
「………」
 何を言いたいか分からんが、絶対下らないことだ。そろそろ耳を半分閉じるとするか。
「涼宮さんが王様になって、長門さんに振り向き様に『愛してる』と言わせましたよね」
「あーそーねー、そんなこともあったかねー」
「で、長門さんの情感のこもらない台詞に満足なさらなかった涼宮さんは、あなたに手本を見せろと仰言った」
「…」
「これはチャンスだ!と思いましたね!
 僕はさりげなく、かつ断固として!あなたが振り向き様に目の合う位置に移動し、その言葉があたかも僕に向けられたかのように感じようとしたのです。そして今まさにあなたがその言葉を言わんとしたその時!」
 さーて、そろそろメシでも食いに行くか?そんでそのまま帰るかな。
「…涼宮さんはあなたの言葉を遮ったのです…っ。『やっぱいいわ』と…。僕のその時の絶望が分かりますか?せっかくあなたに『大好き』と言ってもらえるチャンスだったというのに…っ。期待していただけ絶望も大きかったです。天国から地獄へ突き落とされた気分でした。
 あの時は本気で涼宮さんを恨みました…。後にも先にも涼宮さんを恨んだのはあの一回きりです」
 …終わったか?よくもまぁ毎回そんな下らないことを考えてられるもんだ。秀才は違うね。そういう無駄な思考に回す脳細胞があるんだからな。
「ちょっと!聞いてるんですか!」
 すまんがお前と違って俺の脳細胞に空きはないんだ。

 どこかにこのアホを治してくれる医者は居らんのかね。やれやれ。



アニメネタです。「孤島」に関しては原作よりアニメの方が上手く出来ていたなぁと思います。ま、原作合ってこそですが。