やっぱりお前が謎すぎるのがいけない:キョンの言い分




 古泉がまたなにか裏でこそこそやっているらしい。
 ニヤケ仮面のあの男は、何かというと頼まれてもいない暗躍や根回しをする。普通根回しってのは道筋をつける除草のようなものなのに、あいつのそれはそこここに根を植え付け道をでこぼこにしかえって動き難くなること暫しだった。「石橋を叩いて壊す」タイプでもある。
 はじめのうちは機関という特殊な環境に置かれたがゆえ身に付いた習性だと思ったが、どうやら生来そういうことが好きな性質らしい。ただし、やや下手の横好きの嫌いがある。素直に表玄関から入れば良い場所でも勝手口を探してやがる。

「神戸といえば三宮なんですね〜。私、知りませんでした〜」
 スイートピーが話すとしたらきっとこんな声に違いないという愛らしくほんわかとした声で、朝比奈さんは感心深そうに頷かれた。
「…どこでそれを?」
 想像は付くが。
「古泉くんです。『神戸で待ち合わせと言われたら何処に行きますか?』って聞かれて。知らずに恥をかくところでしたね」
 恥をかいたのは古泉の方ですよ。
 先週、連れ立ってプロレスを見に行った時、「神戸で待ち合わせ」をしたのだが、ヤツが神戸駅、俺が三宮駅で待っていてすれ違いを起こしそうになった。俺の機転でどうにか落ち合えたわけだがその際俺が下した裁定に古泉は不満があるらしい。
 神戸で待ち合わせと言われれば三宮のことだという言い分もだが、「言われた通り」神戸で待っていたのにペナルティが科せられたのが納得できないのだろう。だから俺の不条理さを確信したく、周りに「神戸で待ち合わせと言えば普通何処に行きますか」などと聞いているのだろう。
 …分かってねぇな。
 あれは完全にお前が悪い。…あ、いや、携帯の充電を切らしていたことに関しては俺が悪かったが、俺の非はそれだけだ。
 そりゃ「神戸といえば三宮」という常識の地域限定さ、他所から見ての非常識性は分かる。余所者が間違えておかしいことではないし、その可能性に気付いたからこそ俺は古泉のところに駆けつけられたわけだ。古泉が余所者だというならあいつはちっとも悪くない。
 ただ、今回のポイントはそこではない。
 お前な、北高に半年以上も居てそりゃないだろうが。
 半年も居るんだから「神戸=三宮」の図式くらい把握していろって言うんじゃない。半年も居て、余所者だと知られていないのがペナルティなんだ。
 なぁ、古泉、俺たちはなんだ?
 ハルヒの監視&お守り役か?それだけの関係か?
 リセットされちまったとは言え、500年以上一緒に過ごしただろ。文化祭もクリスマスも雪山も、苦楽を共にした仲間じゃないか。
 あまり積極的に認めるのは癪だが、俺はかなりお前に打ち解けているし気に入ってもいる。頼りにしているし、その…お前と居るのは楽しい。それなのに俺は、お前の出身や家族構成や…まあそこいら辺は知らなくても良いのかもしれないが、今住んでいる場所だって知らない。親しくなれば自然と話題に上るような個人的なことを、俺は一つも知らない。好物とか、好みのタイプとか、それこそ谷口や国木田なんかとはとうに語りつくしているようなことでもな。
 そのことに思い至って愕然とし、どえらく腹が立ったね。お前にとって俺はなんなんだと。
 プロレス観戦なんて、ハルヒに関係ないことでも誘ってくるくらいだからそれなりに打ち解けてくれてんだろう。友人扱いしてくれているとそのことも嬉しかった。
 だってのに。
 俺は古泉のことを殆ど知らない。その原因は古泉が話さないからだ。半年以上も経ってるんだ、もう“謎”は良いだろうが。ていうかそれ、ハルヒ対策だろうが。俺にまで隠すな、少しは話せよ、いーや、話すべきだ。
 あいつは頭は良いが、こと自分の事となるとどうも鈍い。過小評価…とはちょっと違うか。「本当の古泉一樹を知りたがる人間なんていない」と思っている節がある。超能力以外に関しては…いや、下手するとその能力でさえ、代わりがいくらでも居る大衆品に過ぎないと。
 「役目」を持っているヤツほどそういう考え方をするよな。こういう役割において自分は重要だ、だけれどもこの役割がなくなれば自分には価値がない、ってか?
 人間ってのはそんなもんじゃないだろう。確かに役目に対する代わりってのは居るかもしれない。居るからこそ個でなく機能で語られるんだ。だがな、陳腐な言い種ではあるがそいつ個人の代わりってのは何処にも居ないんだ。お前はお前、ただ一人なんだよ。
 …話が激しくずれたな。
 とにかく俺は、お前を気に入っている。神人退治要員としてでなく、何考えてんだか分からない爽やかハンサム、秀才のくせしてボードゲームにはてんで弱いやたらと顔を近づけてわざとらしいポーズを取るイエスマン古泉一樹をな。他の誰かじゃない。だから、お前の事をもっと知りたい。半年も経ったんだから話してしかるべきだったろう。だのに、話さなかった。
 そういう意味でのお前の落ち度というわけだ。分かったか。
 俺たちは一種の運命共同体で仲間だ。それでもって友達だろう?もっと自分を曝け出せ、語れ。そりゃ言えない事はあるだろうけど、言える事だっていっぱいあるだろう?謎すぎるってのはいけない。
 取り合えず、そうだな…俺を自宅に招待するというのはどうた?なあ、古泉。




微妙に続いてしまいました。
ところでこの間久々に阪急乗ったんだすが、ここを利用していて「神戸=三宮」を思いつかないなんてありえないなと思いました(普段JRしか使わないので…)。まあ、架空のお話ということで…。